現場の教えと、守られた命|おーい熊五郎! - TANAAKKファシリティーズ株式会社 秋晴れの昼下がり。街の古い雑居ビルのテナントで、原因不明の天井からの水漏れを調査するため、熊五郎(75)と若い設備技師の桐島(28)が天井裏の点検を行っていた。「熊さん、水漏れの染みはここら辺なんですけど、上の階の床下からなのか、配管の継ぎ目なのか……なかなか原因が特定できませんね」桐島が懐中電灯で天井裏を照ら

現場の教えと、守られた命|おーい熊五郎!

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現場の教えと、守られた命|おーい熊五郎!

秋晴れの昼下がり。
街の古い雑居ビルのテナントで、原因不明の天井からの水漏れを調査するため、熊五郎(75)と若い設備技師の桐島(28)が天井裏の点検を行っていた。
「熊さん、水漏れの染みはここら辺なんですけど、上の階の床下からなのか、配管の継ぎ目なのか……なかなか原因が特定できませんね」
桐島が懐中電灯で天井裏を照らしながら言う。
熊五郎はいつものおっちょこちょいな調子で、「ん〜、どれどれ……ちょっとそこのパネルを外してみるか」と、手際よく天井のボードを外しにかかった。
しかしその瞬間――。
――ガタッ。
天井板を外したわずかな振動が、何十年も放置されて腐食していた古い配管に伝わってしまった。
「うわっ……!?」
次の瞬間、頭上の見えない隙間から、溜まっていた茶色い錆び水がドバッと滝のように勢いよく噴き出した。一瞬にして二人とも頭から足の先までずぶ濡れになり、さらに衝撃で緩んでいた天井の重いボードが剥がれ落ち、熊五郎の頭に「ごつん!」と直撃した。
「いてっ……!」
熊五郎が思わず頭を抱えてうずくまる。
「熊さん、大丈夫ですか!?」桐島が青ざめて飛びついた。
幸い、熊五郎がしっかりと被っていたヘルメットのおかげで衝撃は大きく吸収され、大怪我にはならずに済んだ。びしょ濡れになりながら熊五郎は頭をさすり、苦笑いした。
「いてて……あぶねぇあぶねぇ。やっぱり、現場でヘルメットを脱いじまったら終わりだな。……ん?」
熊五郎は頭を打ちながらも、噴き出した水の匂いと、剥がれた天井のフチに目を留めた。
「桐島くん、見てみろ。この天井裏、築年数からして吹き付けのアスベストが使われている古いビルだ。天井を壊すときや剥がすときは、粉じんを吸い込まないように防塵マスクと保護具が絶対に必要だぞ。……水漏れだけじゃなく、こういう見えない危険にも気を配らねぇとな」
「本当だ……! 水浸しになって焦りましたが、熊さんの言う通り、安全対策を怠ってたら大ごとになってました」
桐島は身を引き締め、すぐにお互いの防塵マスクと安全装備を確認し直した。
数日後。今度は別の現場――地下の機械室で、重量100キロもある新しい「増圧給水ポンプ」の搬入作業が行われていた。
「せーの、ゆっくり上げるぞ!」
熊五郎と桐島、そして若手仲間たちの総勢4人で、重いポンプを慎重に持ち上げ、所定の位置へと運ぼうとしていた。
しかし、地下室の床にわずかに残っていた水滴のせいで、足元が滑りかけた。
「あっ……!」
誰かの手が滑り、100キロの鉄の塊のバランスが崩れ、辰平の足元めがけてドスンと重みがかかった。
「熊さんっ!」
全員が息を呑んだが、次の瞬間、熊五郎の足元から鈍い音が響いた。
熊五郎が履いていたのは、つま先に分厚い鉄芯が入った「安全靴」だった。100キロの直撃を受けたものの、つま先はしっかりと守られており、骨折などの大事故を奇跡的に免れた。
熊五郎はほっと息をつき、自分の足元をポンと叩いて笑ってみせた。
「ふぅ……あぶねぇあぶねぇ。この鉄入りの安全靴を履いてて助かったぜ。若い頃は『動きにくいから嫌だ』なんてサボってたが、こういう時にこいつが命拾いさせてくれるんだなぁ」
桐島は冷や汗を拭いながら、力強くうなずいた。
「本当に……。どんな現場でも、ヘルメットや安全靴、そして見えない危険への警戒を怠っちゃいけないんですね。命があってよかったです、熊さん!」
水漏れの予測できない噴出、古い建物の隠れたリスク、そして100キロの重量物による危険。
どんなに経験を積んだベテランであっても、油断すれば一瞬で命取りになる過酷な現場。
しかし、熊五郎が身をもって教える「基本の安全対策」と、若者たちとの固いチームワークがあれば乗り越えられないものはない。
泥まみれになりながらも互いの安全を確かめ合うその背中は、どんな最新の機材よりも頼もしく、街の命を守る「水のドクター」の誇りに満ちあふれていた。