給排水設備の『図面』について

図面という単語は文脈によって異なった意味を持つため、定義の明確化が必要です。
「図面」という言葉はさまざまなタイミングで使用されますが、用地計画フェーズ、土木設計フェーズ、建築設計フェーズ、設備設計フェーズ、施工フェーズ、そして維持管理フェーズで「図面」という言葉が指す書類には、それぞれ異なる意味と目的があります。「図面が引ける人材」という要求は設計図の意味合いとともに、施工計画、スケジュール、人員計画、調達品目も含めた意味合いも持っています。
1. 用地計画フェーズ「図面」
このフェーズでは、主に土地の利用方法や配置に関する概略的な図面が作成されます。具体的な建物や設備の配置は決まっていませんが、土地の形状や周囲の状況を考慮した上で、土地利用計画が示されます。
- 目的:土地の有効活用方法や交通の流れ、周囲の環境を考慮した配置を示す。
- 図面の内容:土地の境界線、道路、周囲の建物、土地の勾配や水利など。
2. 土木設計フェーズ「図面」
土木設計フェーズでは、主にインフラや基礎構造に関連する詳細な図面が作成されます。この段階では、道路や橋梁、排水システム、基礎工事など、建物の設置基盤となる部分の設計が行われます。
- 目的:建物が設置されるための基盤やインフラを整備する。
- 図面の内容:基礎工事の詳細、地盤改良の計画、排水システム、道路や橋の設計。
3. 建築設計フェーズ「図面」
このフェーズでは、建物の外観や内部の間取り、構造に関する設計図が作成されます。ここでの図面は、建物の形状や構造、外観を決めるもので、特に建築デザインが重視されます。
- 目的:建物の外観や機能性、耐震性など、設計の基本的な方向性を決定する。
- 図面の内容:平面図、立面図、断面図、構造設計図、詳細設計図など。
4. 設備設計フェーズ「図面」
設備設計フェーズでは、空調、電気、給排水設備、機械設備などの詳細設計が行われます。この段階で設備の種類や配置が決定され、それに基づいて設備図面が作成されます。
- 目的:建物が機能するために必要な設備の詳細設計を行う。
- 図面の内容:配管図、電気設備図、空調システムの設計図、機械設備の配置図。
5. 施工フェーズ「図面」
施工フェーズでの「図面」は、実際の工事を進めるための詳細な施工図面です。これには設計図面を基にした現場での施工方法や手順、調整事項などが記載されています。
- 目的:実際の施工作業を進めるための指示書として機能する。
- 図面の内容:施工図、現場での配置図、施工手順、工程表、変更された部分の調整図など。
- 実際にはこの段階でシステムキッチン、システムトイレなどの調達価格が最終確定し、メーカーや機種に応じて施工人員のスキルセットも大きく変わってくるため、施工図面という言葉には調達項目、人員計画、施工スケジュール、品質納期管理などもかかわってくるため、複雑性が高い。
6. 維持管理フェーズ「図面」
維持管理フェーズでは、設備や施設の運用・保守に必要な図面が利用されます。これらは、施設の状態を維持するための修理や点検、改修に関する情報を含んでいます。
- 目的:設備や建物の長期的な運用とメンテナンスを支援する。
- 図面の内容:アズ・ビルト図(竣工図)、メンテナンス用図面、設備の配置図、保守手順書。
- 維持管理においても点検のみなのか、故障や耐用年数切れに伴う施工の各「図面」で意味が異なる。
「図面が引ける人材」の要求
「図面が引ける人材」という要求は、単に「図面を描ける」という技術的な能力にとどまらず、プロジェクト全体の進行管理を含む広範なスキルを求められることが多いです。具体的には:
- 設計図の作成:建築設計、設備設計など、各工程において用途に応じた構造設計図を描くスキル。
- 施工計画の立案:構造設計に基づき、設備調達スペックの特定、施工図、施工手順書を描くための実務的な知識。
- スケジュールの管理:施工計画や納期の管理を行う能力。
- 人員計画の策定:施工チームの編成や業者の手配を行う。
- 調達品目の選定と管理:必要な機器や部材の選定、調達スケジュールの作成。
このように、「図面が引ける人材」は、単に図面を描く能力に加えて、全体の計画を管理し、要件仕様を明確化し、調達、施工、引き渡しまでの実行に移す能力を想定していることがわかります。「図面を引く」という表現に含まれている意図はかなり範囲が広いことがわかります。
施工計画について
🔧 1. 「施工計画」とは?
建築士が作成する「意匠図・設計図」に基づき、実際に施工するための詳細な「施工図」や「設備設計図」を設備工事業者または設計事務所が作成するものです。
給排水においては、以下の内容が含まれます:
- 給水ルート・配管径・バルブ位置の決定
- 排水ルート・勾配・配管径の計算
- 床下・壁中での配管ルート検討
- メーカー品(ユニットバス・キッチン等)との接続位置の整合
- 水栓・排水トラップの仕様確定
💰 2. 給排水設備の施工設計費用の相場(日本国内)
内容 | 費用目安(税別) |
---|---|
戸建て(延床30坪〜40坪程度)給排水施工図作成 | 5万円〜15万円程度 |
設備設計士への依頼(詳細設計) | 10万円〜25万円程度 |
建築設計士が一部作成(簡易配管図程度) | 無償または設計費に含まれることも |
設備業者(配管施工会社)による実行計画書 | 工事契約に含まれることが多い |
📌 3. 設計の担当者による分類
一口に「設計」と言っても上流工程から現場工程まで、各ビジネスプロセスにおける「設計」という言葉の意図は異なります。
担当者 | 位置づけ | 備考 |
---|---|---|
一級建築士(設計士) | 基本設計・建築意匠図 | 配管までは詳細に設計しないことも多い |
設備設計事務所(設備設計士) | 詳細な配管計画・圧力計算など | 建築規模が大きいと必須 |
給排水施工会社 | 実施工図・ルート確定 | 設備CADを使って作成、実務に即した形 |
🧱 4. 注文住宅などでは?
- 工務店やハウスメーカーが「標準仕様内」の給排水設計を内部で完結させている場合が多い
- 特注(勾配が難しい土地、2世帯住宅、井戸水・浄化槽等)は追加設計費が発生する
✅ 結論:費用目安と判断基準
- 標準的な木造戸建て:5〜15万円
- 設備設計士が個別に関わる場合:10〜25万円
- 給排水施工業者の実行図のみ:工事費に含まれる(個別請求なし)
建築士の図面がある場合でも、それを読み込んで配管ルートや勾配、機器の位置を再検討する「施工設計」は別途費用がかかることがあります。特に水回りの位置が標準から外れている場合や二階水回りがある場合は注意が必要です。
新築物件における給排水設備図面の作成に関しては、以下のように役割や資格の範囲が分かれています。
✅ 給排水図面作成に関わる資格と役割
建築士(1級・2級):主な役割: 建物全体の設計図を作成し、法令に基づいた設計内容であることを保証。
給排水に関して:基本的な配置や設計条件(機器の配置や配管ルートの概要など)を図面に反映。建築確認申請における「建築設備計画書」も作成。
義務:建築確認を要する場合は、建築士の設計図が必要。
1級管工事施工管理技士 :主な役割: 設備工事の施工管理を行う資格。
給排水に関して:給排水設備の詳細設計や施工図の作成・チェック。実際の配管径、ルート、勾配などの専門的な計算と施工計画。現場での指導・品質管理。
重要な点: 設計専任の資格ではなく、「施工管理」資格であり、設計図の作成は可能だが、法的義務ではない。実務上は、配管図などの詳細を担うケースが多い。
📝 給排水図面作成の実務フロー
1. 建築士が基本設計図に基づき、給排水の配置を記載
2. 設備設計者や専門業者(設備設計事務所や設備工事会社)が詳細な給排水設備調達を検討
3. 施工図は管工事業者が作成し、実際の工法や必要資格を確定(給排水と一口にいっても壁のはつり、電気、ガス、水道、左官などが関わることもある。対象が金属で加工が必要な場合は切削や溶接も必要)
🔍 補足:図面の種類ごとの関与者
基本設計図(配置図など) :建築士 建築確認に使用
設備設計図(系統図、配管ルート等): 設備設計者(建築士、設備士など) 給水・排水ルートや機器選定
施工図(詳細寸法、ルート、接続等) :管工事業者、1級管工事施工管理技士 現場での実施に使用
✅ 結論
建築士は法的に設計を行う責任があり、基本的な給排水設計はその職責に含まれます。管工事施工管理技士は施工側として詳細な給排水『図面』を作成・管理する実務能力を持ちますが、これは施工に関わる、設備調達、人員計画、作業計画に関するものであって、CADなどによる図面作成自体が法的義務であるわけではありません。したがって、「図面」という言葉が何を指すかは建物ライフサイクルの各段階で定義が異なり、コミュニケーションミスを防ぐためには各段階における書面・口頭での確認が必要になります。